投稿エッセイ集「ありがとうiPod」 > 作品012

iPodは、相棒。

iPodケース suono

出会い

その日我が家にやってきたのは、80GBの容量を持つ黒いiPodだった。
クールなデザインに、目にも鮮やかなカラーの画面。少しばかり張り合いのある値段だったけれども、洒落た箱に詰められた「そいつ」は、年齢の割にアナログ感覚から抜けきれない僕をときめかせるには十分の代物だった。
ちょいとばかり時代ってやつに乗ったつもりになった僕は、早速エンコードしてあった手持ちのアルバムをいっぺんに詰め込んだ。
鞄を常に圧迫するCDのキャリングケースや、再生ソースの入れ替え。そんな、屋外で音楽を楽しむには足かせでしかない手間から解放されるのだ。これぞ21世紀の若者スタイルってやつだぜ−−そんなこっぱずかしい事を、割合真面目に考えてみたりしながら。
しかし、それからしばらくの間は、本質的な面で言うとまだキャリングケースの時代から進歩していなかったのかもしれない。
アルバムをそのまま再生し、終わればいちいち操作して次のアルバムへ。気分に合わない曲がかかるとポケットに手を突っ込んでカチカチ、「あんな感じの曲が聴きたい」となれば長いリストでホイールをグルグルグル……。
iPodは、当時の僕が気づかなかっただけで、きっとこんな風に思っていたに違いない。
−−俺の実力は、こんなものじゃないんだぜ?

転機

転機は、割合すぐにやってきた。
高めのビットレートで転送したことと、毎月増えるCDからエンコードされていくファイルの数とが相俟って、80GBの容量がレッドアラートを鳴らし始めたのだ。
取捨選択っていうのはいつでも厄介で、僕は頭を悩ませることになった。
アルバム単位で削って行くのが一番楽なんだろうけど、どのアルバムにもかなりの割合で残しておきたい曲がある。かといって、一曲一曲手動で転送するのはあまりに非現実的。
すっかり弱り切ってしまった僕に、iTunesから差し出された一つの提案。それが−−スマートプレイリストだった。
半信半疑ながらも、とりあえず僕は提案に乗ってみる事にした。
ネットの情報やiTunesのヘルプを突き合わせながら出来上がったのは、星の数だけで絞り込む、ひどくシンプルなプレイリスト。
しかしそのプレイリストは、シンプルゆえの強烈さでもって僕の固定観念を砕いてくれた。
指定した条件に合う曲をどんどん飲み込み、ずらりと並べていくのだ。慣れた人からすると苦笑ものだろうけど、僕が受けた衝撃たるや言葉にできないほどのものだった。
気がつくと、僕はすっかりプレイリスト作りに夢中になっていた。細かい条件を色々付け加えたり、また削ったり。何となく、中学生の頃にハマったお気に入りベストテープ作りを思い出したりもした。
で、そんなこんなの試行錯誤を経て作り上げた、いくつかのプレイリスト。
それらをiPodに転送した瞬間、僕はとびきり素敵な光景を目の当たりにする。

それまで、こっちの操作にただ反応するだけだったiPodが、確かに、しっかりと−−呼吸をし始めたのだ。

ちょっと条件を指定してやれば、シャッフル再生を楽しむ人なら一度はひっかかる「これ前も再生したじゃん」って事態にぶち当たることもなくなる。流れる曲は、いつだって新鮮。
コメント欄に前もってキーワードを書いておけば、徹夜明けのけだるい朝や少しセンチな夕暮れにぴったりの曲を用意してくれる。
膨大なライブラリに埋もれがちな「隠れた名曲」ってやつも律儀に掘り起こし、ちょっと聴いただけじゃ理解できなかった曲の良さにだって気づかせてくれる。
その時iPodは、ただの音楽プレイヤーから−−僕の心強い相棒になった。

相棒

それからというもの、僕はiPodにポリカーボネートのケースを着せ、イカしたヘッドホンもプレゼントしてあげた。
いつもぺったんこな財布が更にダイエットする羽目になってしまったけど、後悔はしていない。だって、相棒には持てる力の全てを発揮して欲しいし、お洒落だってして欲しいから。
すっかりクールな外見になったiPodは、今も気取った様子でデスクの上に鎮座している。
そして出掛けるその前には、僕の手の中からこう語りかけてくるのだ。
−−相棒、今日のオーダーは?

iPodケース suono
作者紹介
著者近影 お名前 YUTAKA
ウェブサイト
自己紹介 万年金欠の2○歳。
所有するiPod 第5世代iPod 80GB

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