投稿エッセイ集「ありがとうiPod」 > 作品017

とある休日の過ごし方

FMトランスミッターも併用できる、iPod専用カーリモコン。【サン電子】

先日、ちょっと遅い夏休みをもらって、一人、大阪から、滋賀県にある琵琶湖に行きました。
琵琶湖の湖西側に沿って、自転車で散策するコースがあるんですが、見渡すところ、人っ子一人いません。辺りは田んぼだらけ。
その風景の中で、赤く舗装された道だけが、鮮やかなヘビのように、うねうねと続いていく道です。
そんな道を、あてもなく、ただ暇にまかせて、景色の変わらない中、ひたすら何時間も歩いていきます。

誰もいないというのは、ある意味で気楽なのですが、やはり多少は不安です。飲み物、食べ物を買うところがない、ケガをしても誰も助けてくれない、道に迷っても尋ねる人がいない・・
そんなわけで、トートバッグには、お菓子とお茶をたっぷり詰めて、他には、地図やデジカメ、そして、もちろんiPodも携えて(やっとiPodの話に・・ごめんなさい)、長い長い道のりを、ひた歩きます。

普段から、iPodには、さまざまなジャンルの曲を4000曲近く入れて、持ち歩いています。
新旧、洋邦問わず、またジャンルも、テクノ系、jpop、フレンチポップ、ヒーリング系、演歌など、種類を問わず、自分が聴いてみて気に入ったものは、片っ端から入れています。シャッフルに設定していると、とても人には聴かせられない選曲の流れで、一人「ニャリ」とすることもあります。iPodならではですね。

遊歩道を歩き続けていると、舗装された道がなくなりました。そこからは未舗装の道で、山に続く道と、琵琶湖に続く道に別れています。少し右に折れて、琵琶湖の浜辺に出る道に進みました。

浜辺まで来ましたが、遠くの方で、ウィンドサーフィンをしている人が親指大の大きさで見えるくらいで、辺りには、やはり誰もいません。
人工音もまったくなく、聞こえるのは、ただ、波と風の音だけです。
琵琶湖沿いを、白い砂浜が、ずーと先まで弓なりに延びています。弓の端は霧のようにぼやけて、輪郭が見えません。

歩きにくそうだったんですが、誰もいない浜辺を歩くのも悪くないなと思い、靴に入り込む砂と格闘しつつ、琵琶湖からの風に包まれて、さらに、ひた歩きました。
相変わらず、iPodは、無茶なプレイリストを流しています。
浜辺は、ずっとずっと続いていて、歩いても歩いても、果てがないように見えます。

何時間も歩いていると、疲労や空腹、それにiPodの音楽も手伝って、ある種、トランス状態になります。
iPodも、最初は、意味ある曲や歌詞を流してくれますが、だんだんと、曲の輪郭がぼやけ、言葉の意味が薄れてきて、日本語の曲を聴いても、遠い異国の言葉のように聞こえてきます。
さらに歩くのを続けていると、今、自分が歩いているのか、止まっているのかさえ分からなくなってきます。その状態がもっと進むと、今度は、もう一人の自分が、分身して現れます。
同じ背丈で、同じ歩幅で歩くもう一人の自分が現れて、二人で並んで歩いてるように錯覚するんです。

この、もう一人の自分と、いつも、いろいろな話をします。今までの人生のこと、これからの人生のこと、幸せだったこと、そうじゃなかったこと、言いたかった一言、言わなければよかった一言。

そんなことを考えながら、歩いていると、いきなりiPodが止まりました。
表示を見ると、バッテリ切れ。昨日、しっかり充電しといたのに。機種が古いからかな。

ただの箱になったiPodにイヤフォンを巻き付けながら、辺りを見回すと、いつの間にか、夕暮れになっていました。
少し肌寒いです。大きめの音で聴いていたせいか、軽い耳鳴りもします。

あと、どのくらい歩こうか・・、と、考えながら、ふと振り向くと、後ろには、自分の歩いてきた足跡が、砂浜の上に、点々と続いていました。
いつまでもいつまでも続いていました。

ずっとずっと続く足跡も、よく見ると、風のせいなのか、所々、消えてなくなっています。
消えていく足跡を見ると、ふと、いつか自分の存在が消える日のことを考えます。

なんだか、帰りたくなってきました。

バッテリの切れたiPodの代わりに、波と風の音、それに、少々の耳鳴りをミックスした自然の音楽を聴きながら、今日はもう帰ることにします。

FMトランスミッターも併用できる、iPod専用カーリモコン。【サン電子】
作者紹介
著者近影 お名前 吉本
ウェブサイト マックフレンズ
自己紹介 散歩と猫が趣味のマックファン
所有するiPod iPod 3rd故障中、iPod photo 4G、 iPod nano 3rd

このページのスポンサー:サン電子株式会社[広告掲載2007年10月30日〜2012年10月29日]


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