投稿エッセイ集「ありがとうiPod」 > 作品048

弟と私を結んだiPod

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一つ年下の弟は反抗期がとても長かった。
反抗、といっても家族に暴力をふるったり素行が悪かったりするわけではない。
とにかく家族と口をきこうとしない。
そんな弟であったが、父や母と比べ私には心を開いてくれており、学校で友達とけんかしたが謝れなくて悩んでいること、教頭先生に理不尽に殴られて腹が立ったこと、好きな女の子と初めて喋った喜び、などいろんな感情を私に伝えてくれた。

それがだんだん何も喋らなくなっていき、ついには一言だって会話がない日が続いたのは弟が高校二年生、私が三年生になってからだろうか。
話しかけても、弟は私を無視して黙々とパソコンに向かう。
突然語らなくなった弟に、私は戸惑った。
しかも私はいわゆる大学受験勉強期に突入しており、先生や家族から期待をかけられていた私にとって、受験はプレッシャーとの戦いだった。
そんな中、家族である弟から完全に「シカト」されることは私にとって苦痛と寂しさを助長させるものでしかなかった。
無視されることが本当に寂しくて、話しかけることをやめた。

それから月日がたち、大学受験の天王山、センター試験が迫ってきた。
試験の一週間ほど前に、私は友達から「モーツアルトの曲って、聴いたあとちょっとだけIQあがるらしいよ」という話を聞いた。
気休めだとは思ったが、クラシックなら試験前に聞けば心が落ち着きそうだと思って、勉強の合間によく使うiPodに曲を入れようと試みた。
しかしどうもパソコンの調子が悪くてインストールできない。
機械に詳しい弟に、曲を入れてもらおうと思って、久しぶりに声をかけてみた。
「ねえ、受験前に聞こうと思ってるんだけど、このCDインストールしてくれない」
相変わらず、無視。
センター直前ということもあり、緊張の糸が常に張っていた私は、「どうして姉弟なのに、こんなにがんばっている時に何も協力してくれようとしないの」と、ついに涙声になってしまった。
それでも弟はパソコン画面から顔をあげようとしなかった。

そして一週間後、センター当日。
しっかり寝たため体調抜群の私は、充電させたiPodを持ち試験に挑んだ。
やっぱり緊張していたので苦手な国語の前に、落ち着こうと思ってiPodを取り出す。
すると入れた覚えがないのに「最近追加した曲」に曲が入っていた。
「なんだろう。・・・あれ、モーツアルトが入ってる」
クリックして曲のタイトルを見ると、そこにはこんなタイトルの曲が並んでいた。

「姉ちゃんがんばれ1 姉ちゃんがんばれ2 姉ちゃんがんばれ3—」

涙で前が一瞬曇った。
おそらくあの後弟は私のiPodにこっそり曲を入れたのだろう。
そして面と向かって言えなかった言葉を、全てiPodに込めたのだ。
毎日早起きをして遅くまで勉強している私を弟は見ていてくれた。
本当はがんばって、と直接言いたいのに、反抗心が邪魔して言えなかった。
そんな中、iPodは弟の応援が伝わる素敵なツールとなった。
偶然か運命か、私はその日のセンター試験の全ての科目で、今までで一番よい点数をたたき出すことができた。
iPod、本当にありがとう。

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作者紹介
著者近影 お名前 リオ
ウェブサイト
自己紹介 東京の田舎の女子大学に通う大学生です。最近就職活動を意識してあせりだしました。
いつもiPodには大好きな曲をつめこんで、日本のみならず海外に旅行したときも欠かさず持っていっています。海外の友達との架け橋にしたこともありましたが、私と大切な家族をつなぐ架け橋にもなったiPodの逸話を紹介したいと思います。
所有するiPod iPod classic(ブラック)、iPod shuffle(ピンク)

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