10年前のオープン日にも立ち会った店でした。
iPhoneの発売日になれば並び、iPadの発売日にも並び、新年1月2日の初売りにも毎年並びました。
アップル好きの私のことですから、世界でいちばん好きな店がここでした。
そのApple Store札幌が一昨日、2月26日に閉店してしまいました。
入居しているビルが取り壊されるため、退去することになったのです。
最後の開店
最後の日、開店時間の10分前に店の前に着くと、意外にも並んでるひとはいませんでした。
店内では大勢のスタッフが輪をつくり、ミーティングをしています。
開店直前には、単にiPhoneのサポートを頼ってきたと思われる、熱心なアップルファンというわけではなさそうなカップルが一組、店の前に並びました。
いよいよ開店時間になると、店内でカウントダウンが始まり歓声が上がります。
先頭に並んでいた女性の方が、「やばwww」と戸惑いつつも、否応無く店内に誘われます。
そういうわけで私は最終日には、3人目の入店となりました。
Apple Storeでは新製品の発売日に恒例となっている、ハイタッチで迎えていただきました。
最初はなんとなく気恥ずかしかった、このハイタッチを、この店で何度体験したことでしょう。
これが最後だと思うと、こみ上げてくるものがあります。
最後の開店に、涙ぐんでいるスタッフもいました。
集まった家族
店内には、いつもは見られないような、数十名にも及ぶスタッフが控えています。
この日は全スタッフが、開店から閉店まで勤務していたそうです。
中には、久しぶりに見る懐かしい顔があります。
聞いてみると、札幌店からほかのストアに移動・転勤になったスタッフも、この日のために帰ってきたとのこと。
離ればなれになった家族が、最期を看取るために集まったかのようです。
これはもちろん、個人的な感情で帰ってきて店に立っているわけではなく、会社の配慮によるものでしょう。
アップルの社風が垣間みれた出来事でした。
いつもと違う空気
最終営業日は、Genius Barの予約を受け付けておらず、ワークショップの開催予定もありませんでした。
サポートを希望すれば、順番に対応はしてもらえます。
挨拶や記念に訪れるユーザも多く、店内は撮影会のような様相です。
スタッフ同士でも、記念撮影をしています。
いつも以上に、アットホームな雰囲気です。
「今日はこういう自由な感じなので、ゆっくりしていってください」
スタッフにそう声をかけていただきました。
私も馴染みのスタッフと記念撮影をしてもらいました。
私の最後の買い物は、持っていなかったApple Storeギフトカード3種類。
オンラインストアでは購入できないものです。
このあと一旦、店舗を後にしました。
最後の時が近づく
夜の閉店40分前に、再び店舗を訪れました。
店の近くにはさりげなく、工事業者が控えています。
8時閉店後すぐに店内を見えなくして、道路使用許可のおりる9時には、足場を組み始めるとのこと。
札幌の街に浮かぶAppleマークも、もうこれで見収めになるのです。
この時間には閉店を惜しむファンが駆けつけ、店内はしだいに混雑しはじめました。
店内のいたるところで、挨拶や抱擁、記念撮影が行われており、買い物しようという雰囲気でもありません。
最後の購入者として紹介されたお客さんがテーブルに着き、セットアップのためにMacBookの箱を開けると、拍手が起こりました。
そしていよいよ、その時が近づいてきました。
突然店内の照明が、暗めに落とされました。
Apple Watchは19:57を指しています。
残り1分になると、中央通路の両脇にスタッフが並び、花道を作ります。
午後8時ちょうどに向けてのカウントダウンが始まります。
『10、9、8、7、6、5、4、3、2、1 !』
いつものApple Storeなら、締めは「オープン!」となるところですが、これまで例のないクローズのカウントダウンでは、ゼロの瞬間にみんな黙ってしまいました(笑
振り上げた手のやり場にも困り、いっしゅん間を置いて、「ワー!」「イェー!」などど声を上げるしかありませんでした。
スタッフに促され、退店がはじまります。
通路の両脇に立ったスタッフと握手をしながら、「ありがとうございます」と最後の挨拶を交わし、出口へ。
このときはさすがに、目に涙を浮かべているスタッフが少なくありません。
私もつられて、すこし泣いてしまいました。
最後のときに選ばれたBGMは、Rixton(リクストン)の「Hotel Ceiling」でした。
iTunes Store:Hotel Ceiling – Rixton
Apple Music:Hotel Ceiling – Rixton
恋人との別れに心を痛め、出会う前に戻っただけだと自分に言い聞かせる失恋ソングです。
(参考:およげ!対訳くん: Hotel Ceiling リクストン (Rixton))
「また戻ってきます」
外へ出ても、最後の最後まで見届けようというファンが、店の前から動かずにいます。
最後のお客さん(MacBookを購入し、セットアップを始めた方)が出ると、スタッフも外に整列しました。
ストアマネージャーが挨拶をします。
「最高の10年間を、ありがとうございました! また戻ってきますので」
最後にうれしい言葉を聞くことができました。
そして店の前に並んだお客さんに、スタッフ全員でのハイタッチが始まりました。
これが、本当に最後のハイタッチです。
スタッフ全員が終わって店の中に戻ると、ドアが閉められました。
ひとまずは、バイバイ!
またこの街で、この最高のスタッフたちに会える日を信じて。
午後8時14分、外壁のAppleマークの灯が落とされました。
閉店後、そして翌朝
店の前にたまっていたファンも解散すると、店を囲う作業が始まりました。
上の写真は午後11時の様子。
Apple Storeの金属製の外壁パネルを覆う高さまで、足場を組むようです。
気になって翌朝再び訪れると、Apple Store札幌だった場所は、真っ白に覆われていました。
足場を幕で覆い、さらに外側を金属のパネルで囲っています。
パネルの角は、アップルらしく角丸に仕上げられています。
エントランスの脇に、メッセージが記されていました。
“最高の10年間を、ありがとうございました。
Apple Store札幌は閉店させていただきました。
詳しくは、apple.comをご覧ください。”
Apple Storeで無料開放されているWi-Fiには、まだ繋がりました。
店内の撤収はこれから行われるようです。
写真を撮りながらツイートなどしていると、ストアのスタッフも出勤してきました。
昨夜はオールで、そのまま出勤してきたような様子。
帰り際にも別のスタッフに遭遇し、「またどこかのストアで!」と声をかけていただきました。
本当に最高の10年間を、こちらこそありがとうございました。
この日の地元紙の朝刊で、はじめてApple Store閉店のニュースが伝えられました。
小さな記事ですが、アップルのコメントも伝えられています。
(北海道新聞 2016年2月27日朝刊より)
“同社は、移転先を探して再開を目指すとしている”
“同社は「道内にも多くのアップルファンがいるため、直営店の維持が必要だ」として「より利用しやすい場所で再び開業したい」としている”
アップルストア札幌が閉店 道内唯一、移転先は未定 | どうしんウェブ/電子版(経済)
Apple Store札幌は、いまのアップル人気と、多岐にわたる製品ラインナップからすると、あまりにも狭くなっていました。
これを機により便利なストアに生まれ変わって、札幌に帰ってくるのを待とうと思います。
非常に稀な閉店を体験し、オープニングイベントをまた楽しめるなんて、北海道・札幌のアップルファンは幸せです。
(おわり)