【編集後記】「開運!なんでも鑑定団」で未開封の初代iPodが400万円に。鑑定額の根拠は?

初代iPod

12月5日に放送されたテレビ東京「開運!なんでも鑑定団」では、鑑定依頼品として初代iPodが登場しました。
鑑定額はなんと400万円!
番組で取り上げられた「お宝」は、公式サイトのデータベースに載っています。

番組公式サイト:未開封の初代iPod|開運!なんでも鑑定団|テレビ東京

番組ではウォークマンからiPodに至るまでの、携帯音楽プレーヤーの歴史も紹介されました。
かつては一世を風靡したiPodですが、いまは馴染みのない方や、懐かしいと思う方も多いのでしょう。
映像はTVerで配信されています。
視聴できるのは12月12日(火)21:53までの期間限定です。

配信ページ:いま価値沸騰!ニッポン超技術満載<初代iPod>ド級鑑定額&仰天<江戸名医>秘宝に驚き値 | TVer

このiPodはいったい何なのか? どうしてそんな鑑定額になったのか?
番組より掘り下げて解説してみます。

このiPodは何?

これは22年前の2001年11月に発売された、第1世代の5GBモデルです。
パッケージのデザインから、10GBモデルが追加された2002年3月以降に出荷されたものとわかります。
発売当時の価格は税別47,800円(当時の消費税5%を加算すると50,190円)でした。

iPod

鑑定依頼品のパッケージには、シンガーソングライターのアラニス・モリセットの写真が使われています。
アーティストの写真がデザインされたパッケージが使われていた時期は、iPodに10GBが発売されてから、Windows版が登場するまでの、ほん半年程度しかありません。
依頼された方が所有していたのは、購入したものではなく「秋葉原の電気店のくじ引きで当たった」のだそうです。
おそらく2002年8月にMac/Windows版が値下げされて登場して以降に、型落ちになった旧パッケージの在庫品を、イベントの景品として出したのでしょう。

番組では「アラニス・モリセットの写真が用いられた特別バージョン」として解説されていますが、実際は「特別バージョン」というわけではありません。
アーティストの写真が使われたパッケージには、複数のバリエーションがあり、その中のひとつにすぎません。
同じ型番の製品に、ランダムに数種類のパッケージが存在したのです。

  • 5GB:ボブ・マーリー、アラニス・モリセット
  • 10GB:ジミ・ヘンドリックス、ビリー・ホリデイ、Run-D.M.C.
iPod

初代iPodに10GBモデルが追加発売されたときに、5GBモデルのパッケージもリニューアルされて、アーティスト写真が採用されました。
5GBモデルは旧パッケージ版がすでに流通していたので、アーティスト版パッケージが採用されていた短い時期の中でも、5GBの出荷数はかなり少なかったと思われます。
中古市場でもアーティスト版パッケージを目にするのは、10GBモデルばかりです。

私が持っているボブ・マーリー版もかなりレアなのですが、アラニス・モリセット版は、それを上回る珍しさで、私は長年探し求めていました。
日本で流通したのかも謎だったのですが、今も持っているという方が現れて、国内でも販売されたのを初めて知りました。

私は未開封のiPod nanoやiPod touchを持っているけれど(Apple StoreのLucky Bagで当たったもの)、それほど価値はありません。

初代iPodの詳しい情報は、こちらの記事に載せています。

iPod (Scroll Wheel)

【iPodカタログ】iPod (Scroll Wheel):機械式ホイールを備えた第1世代iPod。2001-2003

2023年7月9日

関連記事:【iPodカタログ】iPod (Scroll Wheel):機械式ホイールを備えた第1世代iPod。2001-2003

鑑定額400万円の根拠は?

発売当時5万円だった製品が、番組では400万円と鑑定されました。
20年で80倍になった計算です。
これは今年米国で、初代iPodの未開封品が29,000ドルで取引されたのを基にした鑑定額なのでしょう。

現在の為替相場(円安)も、鑑定額を釣り上げている要因になっています。
流通数の少ないレアなパッケージであることは、特に考慮されていないようです。

番組では鑑定した柴田文彦氏が、「大事なのはビニール」「破いていたら30万円になるかどうか」とコメントしていました。
私はビニール(フィルム包装・シュリンク)の有無で、そこまで価値が変わるだろうかと、疑問も感じました。

シュリンクは破けやすくて、たとえ未開封の新品でも、穴が空いていることがあります。
またシュリンクがあるからといって、未開封だと断定することもできません。
シュリンクは装置のあるところに持ち込めば、簡単に被せることができます。
個人でも1点から利用できるサービスを提供している会社もあります。

私は今回のアラニス・モリセットのパッケージのiPodは、開封済みでも、たとえ使用済みだとしても、依頼者の本人評価額50万円の価値があると思っています。

鑑定団は真贋の鑑定をしたか?

ビニール未開封なら400万円、開けちゃったら30万円、なんて言われたら、開けられないですよね。
しかし中身が本物かどうか確認できないブラックボックスに、そんなにお金を出せるものでしょうか?
紙箱をシュリンク包装した、ぜったい開けちゃダメな「未開封のiPod」は、偽造しようと思えば簡単にできるでしょう。

iPodの箱の中身

そうなると番組では、購入履歴のない未開封のiPodの真贋を、どうやって見極めたのでしょうか?
中に本物の中古品を入れておけば、X線にかけても判別は難しいでしょう。
今回の依頼品では、「鑑定団」は番組の趣旨に反して、偽物・イミテーションの可能性を考慮していなかったように見えます。
でも希少価値から数百万円もの値がつく前例があり、簡単に未開封品を装えるものなら、偽造品が出回ってもおかしくありません。
先の米国の例では、領収書と、短期間しか使われていない珍しいApple Storeのショッピングバッグが一緒になっていたそうで、本物としての信憑性があります。

私は初代iPodを購入した一人ですが、今回の番組を見ても、「開けないで保管しておけば良かったな」とは、ちっとも思いません。
番組で柴田氏が言っていた「22年前にスティーブ・ジョブズがかけた魔法」の恩恵を、iPodをわくわくしながら開封した日から今日まで、ずっと受け続けているからです。
iPodと過ごした日々と思い出は、お金に代えられるものではありません。

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