2005年9月7日(米国時間)にiPod nanoが発表されてから、20周年となりました。
当時のプレスリリース:アップル、iPod nanoを発表 – Apple(2005年9月8日)

iPod nanoは、かつてAppleが販売していた携帯音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」の、バリエーションのひとつです。
カードのように薄いコンパクトモデルで、カラー画面を搭載し、ストレージにフラッシュメモリを採用しているのが特徴でした。

2005年9月のイベントで、当時のCEOスティーブ・ジョブズが、iPod mini(写真右)の後継モデルとして発表しました。
2007年に初代iPhoneが登場する前のことです。
生涯で数々の名舞台を見せてきた「ジョブズのプレゼン」の中でも、この初代iPod nanoの発表は、私が最も衝撃を受けて、印象に残っているものです。
このプレゼンの凄さを理解いただくには、知ってもらうべき背景があります。
それはイベントの招待状と、初代iPodのキャッチコピー「ポケットに1000曲」です。
ポケットの写真の招待状
このイベントの招待状は、ジーンズのポケットの写真を背景に、
『1000 songs in your pocket changed everything. Here we go again.』
というフレーズが書かれたものでした。

参考:ASCII.jp:【特報】9月8日に、アップルは何を変えるのか?(2005年8月30日)
「1000 songs in your pocket」は、2001年に発売された初代iPodの、広告などに使用されたキャッチコピーです。

自分の持っている音楽をすべて持ち歩けて、いつでもどこでも聴けるようにしたiPodは、音楽の聴き方を変えてしまった、革新的な製品でした。
iPodは毎年進化を重ねて、2005年当時はカラーディスプレイ搭載モデルや、小型のiPod mini、画面を省いたiPod shuffleも登場していました。
発表イベントの招待状を訳すとしたら、「ポケットに1000曲がすべてを変えた。いま再び」といった感じでしょうか。
iPodの新モデルが発表されそうなことは予想できても、革新的だった原点回帰のような雰囲気も感じさせて、とてもわくわくしたこを覚えています。
「このポケットは何のため?」の衝撃
発表イベントでジョブズは、製品をお披露目する前に、
「最も売れている音楽プレーヤーのiPod miniを、大胆にも置き換える」
「これにも1000曲入る」
「その名はiPod nano」
「初代以来となる最大の革命」
と、先に製品名を明かし、カメラを自らのデニムのポケットに向けさせます。
iPodが1000曲持ち運べるようにした、iPodやiPod miniが入るポケットです。

ジョブズはおもむろに、ポケットの上にある小さなポケットを指し、
「このポケットは何のためにあるんだ?」
と冗談めかして言います。
そのひとことで、ジョブズが次に何を言わんとしているか、すべてを察しますよね。
その衝撃たるや!
今度の「ポケットに1000曲」のiPodは、あの招待状の写真にもちゃんと写っていた、小さい方のポケットに入ると言っているのです。
ええっ、まさか!? と思うまもなく、ジョブズはそこからiPod nanoを取り出して見せました。
そのデザインも衝撃的というしかなく、カードのような薄さに、クリックホイールと画面も備え、しかもカラー表示に対応しています。
それまでの小型モデルだったiPod miniは、iPod nanoの3倍の体積があり、画面はモノクロディスプレイでした。

あらためて「ポケットに1000曲がすべてを変えた。いま再び」の招待状を思い返してみると、しっかりヒントが載っているのに、あまりにも予想外の革新性で、まったく想像できていませんでした。
ティザーとして完璧だし、ジョブズのプレゼンテーションの演出はやはり天才的です。
本当はこのポケットには入らない?
ジョブズの冗談は抜きにして、このポケットが実際は何のためにあるのかといえば、本来は懐中時計を入れるものだったようです。
懐中電灯が廃れるのに合わせて、本来の機能は忘れられ、ポケットだけが残っていたようです。
参考:ジーンズの小さいポケットは何のためにあるの?時代に合わせて進化するジーンズのポケット – BOBSON JEANS

iPod nano用としてジョブズが再定義した、このポケット。
しかし円形の懐中時計を入れるためのポケットは、それほど深さがなく、私が試みたかぎり、縦長のiPod nanoが収まったことがありません。
おそらくジョブズはこの演出のために、ポケットの底を破り抜いて、iPod nanoを入れたのではないでしょうか。

